バトラーズパントリー導入の判断基準|「ただの物置」にしないための動線と寸法
2025-12-25 11:50
海外インテリアで見かける「バトラーズパントリー」。 生活感のない美しいキッチンを実現するための憧れの設備ですが、日本の住宅事情で安易に導入すると、 「高かった割に使わない物置」 になりがちです。
普通のパントリー(食品庫)と何が違うのか。 我が家に導入してメリットがあるのか。
この記事では、バトラーズパントリーを「採用すべき人」と「やめるべき人」を分ける判断基準と、設計で失敗しないための 「動線と寸法の鉄則」 を解説します。
結論:バトラーズパントリーは「収納」ではない
最初に定義をはっきりさせましょう。
バトラーズパントリー(BP)は「収納」ではなく、「第2のキッチン(作業場)」です。ここで「何の作業をするか」が決まっていないなら、ただの壁面収納にしたほうがマシです。
元々は「執事(バトラー)」が、主人のいるダイニングへ料理を運ぶ前に盛り付けをしたり、食後の汚れた食器を一時的に下げたりするための 「バックヤード」 です。 単にストック食材を置くだけなら、それはBPではなく「ウォークインパントリー」です。
1. 目的の言語化(何をする場所?)
あなたがBPに求めているのはどれですか?
- A. 隠す(生活感の排除) :
- 冷蔵庫、電子レンジ、トースター、炊飯器、ゴミ箱をすべてメインキッチンから隠したい。
- → BP導入の最大のメリット です。メインキッチンがモデルルームのように綺麗になります。
- B. 作業する(裏方仕事) :
- コーヒーを淹れる、パンを焼く、買ってきた惣菜を皿に移す、洗い物をする。
- → BPの本質 です。これをするなら、通路幅と照明計画が重要になります。
- C. 保管する(ストック) :
- 水、米、缶詰、ホットプレートなどをしまっておきたい。
- → BPである必要はありません 。普通のパントリーや床下収納のほうが、床面積を無駄にしません。
2. 動線シミュレーション(ここが失敗の9割)
BPが「便利なバックヤード」になるか「開かずの物置」になるかは、動線で決まります。
「通り抜け(ウォークスルー)」が最強
玄関(または勝手口)→ BP → キッチン → ダイニング と抜けられる 「回遊動線」 が理想です。
- 買い物から帰って、そのままBPに食材を置ける。
- 料理中に「あ、あれ取らなきゃ」と思ったとき、最短距離でアクセスできる。
「行き止まり」はゴミ捨て場になる
キッチンの奥にあって、そこで行き止まりになる配置の場合、奥の方に置いたものは二度と取り出されなくなります。 また、換気が悪くなりやすく、湿気や熱がこもる原因になります。
3. 必要な寸法とコスト
BPは「人が中に入って作業する」ため、壁面収納よりも圧倒的に床面積を食います。
- 通路幅 :最低 75cm (一人が通れる)、できれば 90cm (お盆を持って通れる)が必要です。
- 奥行き :家電を置くならカウンター奥行は 45cm 、作業するなら 60cm 必要です。
- 面積 :最低でも 1.5畳 、実用的な作業スペースを作るなら 2.5畳〜 のスペースが消えます。
坪単価100万円の家なら、BPを作るだけで 150〜300万円 の建築コストがかかっている計算になります。 「それだけの価値がある作業場か?」を自問してください。
4. 設備の要否(コストの分かれ道)
「ただの棚」にするか、「第2のキッチン」にするかで、設備コストが数十万円変わります。
- [ ] コンセント(必須級)
- 電子レンジ、トースター、炊飯器、コーヒーメーカー、電気ケトル…
- BPに隠したい家電の数を数え、消費電力の高いもの(レンジ・炊飯器)には専用回路を引く必要があります。
- [ ] 換気扇(必須級)
- 炊飯器やオーブンを使うなら必須です。匂いと蒸気がこもり、カビの原因になります。
- 冷蔵庫を置く場合も、排熱のために換気が必要です。
- [ ] 水栓・シンク(贅沢品)
- コーヒーメーカーへの給水や、簡単な手洗いに便利ですが、給排水工事費がかさみます。
- メインキッチンのシンクまで数歩なら、無くても困りません。
5. 失敗パターン
- 「暗くて作業しづらい」
- 窓がない部屋になりがちです。作業をするなら、ダウンライトなどで十分な照度を確保してください。
- 「冷蔵庫が遠い」
- 生活感を消すために冷蔵庫をBPに入れた結果、「料理中に食材を取りに行くのが面倒」になり、結局メインキッチンに食材が出しっぱなしになる本末転倒パターン。
- 「扉が邪魔」
- 隠すための扉を開け閉めするのが面倒になり、開けっ放しになる(=隠せていない)。
- → 普段は開けっ放しにできる「引き込み戸」や、ロールスクリーンが推奨されます。
6. 最短の進め方(やること)
- 家電リスト作成 :BPに入れたい家電とゴミ箱をすべて書き出し、サイズを測る。
- 動線確認 :図面上で、キッチンからBPへの移動距離を測る(3歩以内が理想)。
- 通路幅チェック :棚の奥行きを引いた残りの通路幅が75cm以上あるか確認する。
- 設備の決断 :水栓をつけるか、換気扇をつけるか決める。
リンク集(出典+事例・アイデア)
判断の根拠となる情報源と、イメージを膨らませるための実例です。国内事例はまだ少ないため、本場(海外)の事例と、日本の「ウォークスルーパントリー」の事例を組み合わせて参照してください。
1. 本場の事例(海外)
- YouTube : Studio McGee "The McGee Home Kitchen + Pantry Tour"
- 動画リンク(YouTube検索)
- 本格的なバトラーズパントリーの動線と美しさが分かる決定版動画。寸法感の参考に。
- Houzz : Butler's Pantry Design Ideas
- 海外の膨大な事例集。「シンクあり/なし」「窓あり/なし」など、具体的な仕様のイメージ探しに最適。
2. 国内の実例(ウォークスルーパントリー)
- YouTube : 「ウォークスルーパントリー ルームツアー」
- 検索結果へのリンク
- 日本では「バトラーズパントリー」という名称よりも「回遊できるパントリー」として紹介されていることが多いです。実際の生活動線や収納量は、こちらの検索結果のほうが参考になります。
- RoomClip : 「バトラーズパントリー」のインテリア実例
- 日本の住宅サイズでのリアルな導入事例が見られます。
3. リアルな失敗談(寸法・動線)
- ブログ検索 : 「パントリー 通路幅 後悔」
- Google検索結果
- 「通路幅60cmで狭すぎた」「冷蔵庫のドアが開かない」といった、寸法に関する生々しい失敗談が見つかります。設計前に必ず読んでおくべきです。
- 知恵袋 : 「パントリー 換気扇 必要」
- 実際に住んでみて「匂いがこもる」「湿気でカビた」という相談が多く寄せられています。設備の要否判断の参考に。