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吹き抜け(Void)|「開放感」と引き換えに失う「温熱環境」と「静寂」

Tue Dec 23 2025 00:00:00 GMT+0000 (Coordinated Universal Time)

吹き抜けは「煙突」である。

モデルハウスに入った瞬間、見上げると広がる大空間。天窓から降り注ぐ光。「こんな家に住みたい」と誰もが憧れます。しかし、その「開放感」の裏には、空気と音の物理法則という冷徹な現実があります。

空調計画なき吹き抜けは、冬は暖かい空気をすべて2階へ逃がし、夏は2階の熱気を1階へ落とす、巨大な「エネルギー浪費装置」になりかねません。

結論:全館空調(または高気密高断熱+シーリングファン)がない吹き抜けは、冬の寒さと夏の暑さを増幅させる。

吹き抜けを採用するなら、家の断熱性能を最高等級まで引き上げることは「マナー」です。中途半端な性能の家で吹き抜けを作ると、窓際で冷やされた空気が滝のように降り注ぐ「コールドドラフト現象」に悩まされ、冬はずっと足元が寒いまま過ごすことになります。

判断基準:あなたの家は「吹き抜けの副作用」に対策できているか?

1. 温熱環境のスペック

吹き抜けを作っても快適に過ごせる最低ラインは以下の通りです。

  • UA値(断熱性能) :0.46以下(HEAT20 G2グレード相当)。これより低い性能だと、光熱費が跳ね上がります。
  • C値(気密性能) :1.0以下(できれば0.5以下)。隙間が多いと、煙突効果で暖かい空気が屋根の隙間から逃げ、足元の隙間から冷気が侵入します。
  • サーキュレーション :天井に溜まった暖気を強制的に床へ戻す「シーリングファン」は必須装備です。デザインだけでなく、機能として必要です。

2. 音とニオイの筒抜け問題

「家族の気配を感じられる」というメリットは、裏を返せば「プライバシーがない」ということです。

  • テレビの音 :1階のリビングで見ているテレビの音が、2階の寝室や子供部屋に丸聞こえになります。
  • 生活時間帯 :夫が夜遅くに帰宅して食事をする音が響き、先に寝ている子供や妻が起きてしまうトラブルが多発します。
  • 料理のニオイ :焼肉や魚を焼くと、そのニオイは2階のホールまで充満し、数時間は抜けません。

3. 高所のメンテナンス

「電球が切れたらどうするか」を考えていますか?

  • 照明交換 :床から5m以上の高さにあるダウンライトは、脚立では届きません。業者を呼んで足場を組むと、電球1個の交換に3万円〜かかります。電動昇降機能付きの照明にするか、キャットウォーク(点検通路)を設ける必要があります。
  • 窓掃除 :高い位置にある窓(ハイサイドライト)は、室内からも外からも掃除が困難です。汚れが目立っても諦めるしかありません。

典型的な失敗:初心者がハマる落とし穴

  • 「寒すぎて塞ぐリフォーム」
これが最悪のケースです。住んで初めて冬の寒さに絶望し、数百万円かけて吹き抜け部分に床を張り、ただの部屋にしてしまう。開放感のためにかけたコストがすべて無駄になります。
  • 「受験生の苦情」
子供が小さいうちは良くても、受験期になると「リビングの音がうるさくて勉強できない」と家庭内不和の原因になります。

最短の手順:後悔しないためのロードマップ

  1. 数値で確認する 工務店やハウスメーカーに「この吹き抜けを作るなら、UA値とC値はいくつになりますか?」と聞いてください。「大丈夫ですよ、暖かいですよ」という感覚的な答えしか返ってこない会社は危険です。
  2. 音のシミュレーション 吹き抜けのあるモデルハウスに行き、1階で普通の声で会話してもらい、2階の個室(ドアを閉めた状態)でどれくらい聞こえるかを確認してください。
  3. メンテナンス計画の確定 設計段階で「この窓はどうやって拭くのか」「この照明はどうやって変えるのか」を一つずつ確認し、自力でできない部分は電動化などの対策を盛り込みます。

追加で知るべき論点:火災保険と固定資産税

  • 固定資産税:吹き抜け部分は「床」がないため、延べ床面積に含まれません。その分、固定資産税は少し安くなります。
  • 火災保険:特に関係ありませんが、火災時の煙の回りは早くなるため、感知器の設置計画は重要です。

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